国会審議の「花形」に字幕 速記者が挑んだ高い壁
国会審議の「花形」に字幕 速記者が挑んだ高い壁
【メディアインサイド】 国会審議の「花形」と呼ばれる衆参両院の予算委員会のテレビ中継に、NHKが10月中旬からリアルタイムで字幕を付けている。入力するのはAI(人工知能)ではなく、プロの字幕速記者だ。本会議では平成30年から実現していたが、予算委は議論の対象が財政から閣僚のスキャンダルまで幅広く、リアルタイムで入力するには経験の蓄積が必要だったという。聴覚障害のある人々からは歓迎の声が上がっている。 【写真】テレビ番組の字幕を特別製のキーボードで入力する字幕速記者 ■リアルタイムに意義 「放送法が定めた政治的公平性などの観点から、国会中継の字幕は慎重さが求められる。予算委は質問の予想がつかず、導入に踏み切るのが難しかった」 そう明かすのは、NHKメディア戦略本部の大月隆司専任部長。「予算委は各党が意見を戦わせる場。障害のある方に関連する議論も多く、リアルタイムで伝える意義は大きい」とも強調する。 NHKは聴覚障害者団体などからの要請を受け、国会中継の字幕を本会議で先に実現した。本会議では質問のテーマが事前に通知されるため、ある程度の準備はできたが、予算委はテーマが〝何でもあり〟で「出たとこ勝負」になると大月専任部長。「AIでは難しく、プロの字幕速記者のスキルが必要になる」という。 ■それでも聞き取れない場合は「…」 字幕は「スピードワープロ字幕放送センター」(東京都新宿区)の複数の字幕速記者が、特別製のキーボードを使って入力している。平成30年から本会議中継の字幕も担当して経験を重ね、この秋の予算委字幕につながった。 同センターの佐藤永未子部長は「訓練されたアナウンサーとは違い、政治家の発話にはクセや独特のイントネーションがあり、聞き取りが難しい場合がある。法令の正式名称の難しさや、『しんこう』という言葉に振興や新興など、どの漢字をとっさに当てればいいのかといった苦労もあった」と難しさを語る。 どうしても聞き取れなかった場合は「…」を表示するなどして対応。今後は「固有名詞などの課題を改善していきたい」という。 ■視聴者から高い関心 「今までは何を話しているのかさっぱり分からなかったが、今回は議員の発言後すぐに字幕が付与され、鋭い質問への首相や大臣らの答弁の内容を把握することができた」 聴覚障害のある60代男性は、全日本ろうあ連盟(東京都新宿区)を通じて産経新聞にコメントを寄せた。男性は「国民の一人として関心を持っていた討議をすぐに把握できることは、大きな収穫だった。今後もできるだけ見ようと思っている」と期待感を示した。 NHKの視聴者窓口にはふだんから1日約2千件の問い合わせがあり、中でも国会中継の反響は100件を超えるなど関心が高い。今回の字幕化については歓迎の声が健常者からも寄せられたという。NHKは今後も全ての国会中継で字幕を付ける方針だ。