CM新時代…大声より「なごみ」 商品名連呼より「企業姿勢」のトレンド
CM新時代…大声より「なごみ」 商品名連呼より「企業姿勢」のトレンド
【今週の言葉】「心がなごみ、人との交流を温かく描いたCMが人々の共感を得ている」 CM好感度トップ10を発表する「ブランド・オブ・ザ・イヤー2022」(13日)で、主催するCM総合研究所関根心太郎代表が述べた総評の言葉です。 1位は三太郎シリーズでおなじみのauが8年連続の受賞となったが、式典のオープニングで流されたヒットCMの数々は、日本マクドナルドの「月見ファミリー」、サントリーホールディングス企業CM、資生堂150周年記念CMなど、コロナ禍3年目を生きる人々の背中をさりげなく押す感動作が多くあった。 「大声」「早口」「商品名連呼」というここ数年のノイジー路線とは明らかに違う、地に足の付いたトレンド。届けたい相手、伝えたいメッセージ、企業姿勢がしっかりあるCMが戻りつつあるという印象を受けた。 紹介されたヒットCMで個人的にグッときたのは、大塚製薬「カロリーメイト」の「青いカロリーメイト」編。リモート時代の営業を舞台にした若手(金子大地)と先輩(大島優子)の物語で、「顔は見ているけど、背中は見ていないんじゃないかと思って」という言葉がすてきだったのだ。働く人の背中も、それを見て何かを得る2人の背中も尊く、見ていてうっかり泣きそうに。商品名は最後だけというのも潔く、働く人へのリスペクトと、それを支えたいバランス栄養食の自信がより伝わってきた。 カロリーメイトは6月に発表された第59回ギャラクシー賞CM部門でも優秀賞を受賞。こちらは受験生応援の「Midnight Train」編で、コロナ禍のひたむきな青春を車窓から見守っていくすてきな作品だ。 やはり列車は感動作になりやすいのか、九州新幹線のSPムービー「流れ星新幹線」もギャラクシー賞CM部門優秀賞を受賞している。九州新幹線の1日限りの光のパフォーマンスを九州各地で収めたシンプルな力作。人々を励ますようにカクテル光線を放ちながら走る新幹線の雄姿と、沿線で手を振る人たちの笑顔が主役となって、鉄道の感動を伝えている。 ギャラクシー賞CM部門の服部千恵子委員長は、6月の贈賞式で「この3年でCM表現の方向性が変わった」と指摘していた。コロナ以降、大声よりも優しい語り口にシフトしたとし「多くの人が感じる鬱屈した日常に寄り添う表現が多く見られた。何げない、さりげない、心地よい伝え方が共感を獲得している」と話している。 その知見は、今回「ブランド・オブ・ザ・イヤー」を発表したCM総研の関根代表も同様だ。「不安やストレスを抱える生活者にそっと寄り添うメッセージや、人との交流をあたたかく描いたものが共感を得ている」と話す。 同社が毎月3000人のモニターに行っているアンケートによると、CMに求める好感要因の中でも、この3年は「企業姿勢にうそがない」「心がなごむ」の項目のアップ率が大きいという。その代表例として、関根氏は「アサヒ生ビール」を挙げている。竹内まりやの「元気を出して」をBGMに、新垣結衣が「おつかれ生です」と優しく語りかける内容。アサヒビールは「心がなごむ」部門で総合1位となっている。 以前、広告関係者に聞いたところによると、大声系、早口系、連呼系が重宝された背景には、15秒にあれこれ詰め込まないと損という企業心理のほかに、大きな音をさせてスマホから顔を上げさせ、CMに注目させたいという切実な狙いもあるのだという。しかし、ウィズコロナで消費者が「心がなごむ」コミュニケーションを重視する中、一方的なディスコミュニケーションの手法は限界に来ているようにも思う。 今やテレビ離れが常態化し、テレビ広告費がネット広告費に抜かれて久しい。しかし、テレビCMに初参入する企業の数は増えていおり、今もテレビCMは企業認知と売り上げを左右する圧倒的な存在だ。関根氏によると、昨年在京キー5局でオンエアされたCMの放送回数は約150万回、商品数は6833にのぼる。ウィズコロナ時代のCM像を模索しながら、人の心を動かすCM作りに期待したい。 【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)