大手電力10社、規制料金の上限到達 自由料金との逆転現象で顧客移動も
大手電力10社、規制料金の上限到達 自由料金との逆転現象で顧客移動も
大手電力10社が30日発表した10月の家庭向け電気料金で、全社が燃料費上昇分を料金に上乗せできる燃料費調整制度の上限に達した。ロシアのウクライナ侵攻に伴う、火力発電の燃料価格高騰が要因だ。各社にとっては経営圧迫要因となるため、今後、値上げ申請などといった動きにつながる可能性があるが、消費者の負担増にも直結するため、経済産業省や各社は難しい判断を迫られる。(永田岳彦) 「燃料価格の動向、利用者保護の趣旨、安定供給と電力会社の経営など総合的な観点から検討したい」。30日の閣議後記者会見で、西村康稔経産相は電気料金の現状認識をこう説明した。 燃料価格高騰に伴い、各社の電気料金は上昇を続けており、2月に北陸電力が上限に達して以降、毎月のように上限に達する電力会社が増えていった。30日には、残り1社となっていた中部電力も、標準的な家庭のモデルで78円値上げして9189円となり、上限に到達した。現行の燃料費調整制度となった平成21年以降、初めて全社が上限に達する異例の事態だ。 上限に達しているため、今後、さらに燃料価格が高騰しても、電気料金の値上げは実施されず、家計にとってはメリットとなる。しかし、価格高騰分を負担する各社の経営には打撃だ。この状況が長期化すれば、コスト削減で補修作業などに影響が出る恐れもあり、必ずしも健全な状況とはいえないのが現実だ。 家庭向けの電気料金には値上げ時に経産省への申請が必要な電力自由化前の「規制料金」と、電力自由化後に設けられ、各社判断で値上げ可能な「自由料金」がある。値上げの上限に到達しているのは規制料金で、自由料金は値上げが可能なため、本来は割安とされる自由料金が、規制料金より割高になる逆転現象も生じている。 経産省は平成28年4月に始めた電力自由化で、十分な競争により安価で多様な自由料金が普及した段階で、規制料金を終了する方針だが、自由料金の利用者が割安な規制料金に移る動きが加速すれば、電力自由化の理念にも逆行する。 今後値上げをするには各社が経産省に申請し、認可を得ることが必要だ。ただそれには人件費など事業全体の見直しが必要で、経産省も値上げの妥当性を点検することになる。ある大手電力の担当者は「値上げ申請すれば経営に口出しされる可能性もある。申請が得策なのか、各社とも検討しているところだろう」と話している。